Project story 02
最高のひとこと『ありがとう』

出会いと落胆

思い返してみると、私からA社への1本の電話からスタートした。
今回当社の主力パッケージとなっているDigタブレットを、興味のありそうな新規の会社へ電話をかけるものである。
その日は運が良いことにA社のある工場の情報システム部のY氏と電話が繋がった。
パッケージの特長をお伝えしたところ、実業務を担当している部署の方へも紹介していただけることとなった。
後日、商品デモを通してパッケージの内容をより理解いただくため、訪問することとなった。

訪問の日が来た。
約束の時間に訪問すると、そこにはA社の全国の各工場の実業務担当者が集まっており、5名の方に向けてデモを実施、同時に現状運用の確認を行った。
打合せの中では様々な方向からの意見も飛び交ったため、もしかするとスムーズに話が進むのではと容易な考えが生まれていた。
社内で検討していただけるということで、一旦その日はA社を後にした。
その後数カ月の間、何度も電話してみたが回答は『検討段階』ということ。
容易な考え通りにはいかず、案件は立ち消え、これで終わってしまったのだとあきらめるしかなかった。

青天の霹靂

そうして1年が過ぎたころ、急展開を迎える。
A社の本社工場から電話がかかってきた。
電話口は以前にデモを聞いていただいた方の中の一人。
「本社工場から改めて導入検討を進めてみようかと思いまして。」
私は飛び上がった。覚えていただけていた。
『検討段階』はただの口実だと考えていたが、本当に『検討段階』であったんだと。

そこからはトントン拍子でお客様の要望のヒアリングから行い、
それに対するパッケージのカスタマイズ提案、お見積の提示を経て受注となった。
しかし、受注後も気を抜くことはできない。
お客様の意識している内容と当社の意識している内容に相違があっては導入後にトラブルになる可能性がある。
打合せの中でシステムを使った運用方法の確認を入念に詰めていく。

1つの要望に対して、実現する方法はいくつも考えられる。
その中で問題点を洗い出し、お客様の運用方法とカスタマイズ工数のバランスを見ながらカスタマイズ方針を決定していく。
打合せを何度か実施していくことで、「ソフトウェア」「システム」という分野をあまり知らなかったお客様にも知識が蓄えられ、こういったことは実現できないかなぁ…こんな運用に変えて、システムをその運用に合わせてこんな形にできないか…といった逆提案による意見も上がってくるようになった。
お客様からの現場を知っているからこそ出てくるアイデアに感心させられながらカスタマイズ方針を変えていく。
システム屋としては、一部の方針を変えることで影響するシステム全体の整合性バランスを取ることも重要な役割である。設計に誤りがあるとシステムは崩れ落ちてしまう。あらゆる運用パターンを想定して、全体のシステム設計を見回しての変更作業はとても大変であった。

納品物のギャップ

プログラミング作業の後、導入に向けての調整をしていく中で、大きな壁が現れた。
当社が想定していたものより多く、また粒度の細かい納品物をお客様に求められたのである。
システム内部の動きを分かっている立場からは必要十分なテスト内容であっても、システム内部の動きが分からない側からするとテスト不足と捉えられるような細かなテストであった。
もちろん問題なく動くわけであるが、テストにはエビデンス(証拠)も残すため、ひとつひとつ丁寧に画面に表示される結果を残していく必要がある。
他社への納品物からの想定と今回のA社の求めるものとのギャップを感じた場面であった。

開発期間を経ていざ納品!

そして納品後の微調整を終えて実運用を開始していただくことになった。
こんな例えは良いのか分からないが、実運用の開始というのは昔からカーリングのストーンを手放す時の感覚に似ていると思う。やったことはないが(笑)
運用が軌道に乗った後、年末挨拶で訪問した時システムの状況・運用の様子について訊ねてみると一番欲しい言葉を聞くことができた。

「ありがとう」

この5文字に尽きる。

最初の電話をしていなければ、お客様の検討がなければ、お客様からのご要望が出ていなければ、お客様の前向きな姿勢がなければ、提案内容・提示金額が見合ったものでなければ、当社の技術が足りなければ、この言葉を聞けなかった。

いくつもの恵まれたものに囲まれたこと。上司からの適格な指示もあっての自分のアクションが間違っていなかったと確信した瞬間だった。